あの日きらきらが降ってきた
高校生のころ大好きだったバンドのライブに行ってきた。
高校生のころ、ってわざわざ書いたけどべつに今も好きです。ラフな感じで。あのころの好きは強いて言うならフォーマルな感じ。正式に全生活を捧げてたから。でもフォーマル時代を経ているし今もフォーマル級の好きを捧げまくっているひとがいるのも分かっているので心のなかでなんとなく好きと言うことが憚られるの。非常にどうでもいい感じではあるんだけど。
意識して新曲追ったりはしてないのだけど、一年に一度くらいなんとなくライブに行って、ライブに行く前に、そういえばアルバム出てたなあって買いに走ったりする。
あのころは、ライブとか、音源の発売とか、楽しみで楽しみで。発表があってから当日までずっとそのことばかり考えて、その日に照準を絞って生活していた。
ライブのために服を買いに行って、マニキュアを塗ったり、ついでに見えないペディキュアまで塗ったり。服もマニキュアも、色は絶対に黒。黒い爪はあのころのわたしの武装だった。爪を真っ黒に塗っているとなんだか少し強くなれる気がしていた。
そういえば化粧をし始めたのもライブに行きだしたことがきっかけだった。ライブの最中マスカラの繊維が目に入って痛かったなあ。
制服を着て部活の友達と学校帰りに行ったライブ、よく覚えてる。
安全ピンでむりやりスカート長くしてさ。今思えば、スカート、ちゃんと履くか、せめて短くしたほうがまだかわいかったと思うよ。
あのころ前髪のぱっつん具合に異様にこだわりがあって、毎日髪切り鋏で前髪をそろえていたっけ。ハサミの角度とかにこだわりがあったのです。これも今思えばそんなにぴっちりぱっつんじゃないほうがまだかわいかったと思うよ。
でもたのしかったなあ。
初めてのあの日、物販待ち、開場待ち、開演待ち、何時間も前からライブハウスのそばに座り込んで、なのに心臓が張り裂けそうに緊張していて一言も喋れなかった。照明がおちてギターが鳴りだしたとき、頭のなかにきらきらが降ってきたよー。
あの制服を着ていた三年間はそんな魔法にかかって、とってもきらきらとした思い出。はつらつとしたほうの青春の思い出。
中学生のころからライブとか夏フェスとか好きでよく行っていたけど、ジャンルも規模も違ったし、中学生のころってなんだかぼーっとして半意識不明みたいな具合だったので高校生になって初めてライブに行ったあの日は格別だった。
ライブとか、なんでも、あのころは100パーセントその場に没頭していなくちゃいけなかったんだけど、今はなんだか生活のなかの一部だと思う。
わたしはまんがを読んだり小説を読んだり、学校へも行くし、学校でも家でもパソコン開いてかちゃかちゃやって、美術館も好き、きれいなものとカワイイものが好きで、誰かのことをいつも知りたくて、知りたくて知りたくてしかたがなくてネットストーカーじみていて、お酒も好きだし、アルバイトでお酒を作ったりもするし、人のことはだいたい嫌いだと思っていて、でも人のことでかんたんにジンワリしてしまう、ばかみたいに人間って憎めないなあとか思っちゃうし、それなのに次の日には地球が滅びますようにと祈って、めんどくささに弱く、でも「せっかくだから」は大切にしたい、目が覚める瞬間の感覚が大好きで、今日なんとなくライブに行き、あー行ってよかったなーと思っていて、でも明日はデートだし、別にマックでいいんだけど懐石料理食べるし、いつか出会うと信じてる運命の相手を夢見ながら眠り、かわいいなあ眠いなあって思いながらきっと彼氏とセックスもするだろう。
すばらしいよな、わたしはこうなりたかったんだ。ちゃんと生活を送ってすべてはそのなかの一部になればいいなと思ってたの。ずっとなんだかぶつ切りみたいな気持でいたから。
チケット発券するのがめんどうでライブ行くのやめようかなあとまで思っていたけれど行ってよかったな。物販もちこくして目当てのもの売り切れてたけど行ってよかったな。ちょっとしあわせ! あとは原稿とか題目の提出とかその中身とかちゃんとできればもっとしあわせ!
ファンクラブとか抜けちゃったり新譜も追えないけど今も大好き! アイラブユー! ギターのひとけっこんして! けっこん。あーこのもうそうだけで二か月くらい暮らせそう。
ああいうきらきらの感覚を覚えていたくて日記を書く、あの日きらきらが降ってきたってことを忘れたくなくて何度も何度も書く。
きらきらだけじゃない、無為な時間、あのころ毎日ぼんやりしていて死ぬことばっかり考えてたなあとか、そのときの視界の色、電線を巨大な蜘蛛だと思ったこと、一日中歩いて薬局をはしごしたこと、全部忘れたくなくて、文字にして、日記でもなんでもいいけど、書く。
「あのころ」っていつか思うため、思えるように、今を作らなきゃ。
むだな時間ってないよなあ。みんな本を書けばいいのに。