大きいごはん、小さいごはん
文化の日。朝から授業だった。
「今や幻想は現実と同等の地位を獲得し、現実はもはや幻想と化してしまった」。じゃあそんな世界で人間はいったい何ができて何をすべきなの? 芸術! と一瞬思ったけれど、星新一賞は人間以外の応募(人工知能とか)も受け付けていることを思い出してがっかりした。
授業が終わってから、後輩たちの卒業制作を見に行った。自分が卒業してからもう二年が経つという事実におどろく。
この代で、わたしの知っている子たちは最後だ。これ以下はほとんど関わりもない。最後の卒業制作、という言葉がなんとなく浮かぶ。
二年前のことを思い出して、開演前から泣きそうになる。あの一年のことは今でも思い出したくないくらいだけれど、やっぱり舞台って悪くない。そこに舞台芸術があるだけで泣けてしまう。
舞台の上の輝かしい一瞬と、そこに至るまでの膨大な稽古、舞台中も裏で必死になっているスタッフ、祈るばかりの演出家、そして舞台が終わってしまったあとのそれぞれの生活を思うと、なんでだろう、涙でそうになる。人はそうやって暮らしてゆくのだもの。
劇場には、同期や後輩や先生、知っている人がたくさんいた。けれど誰にも挨拶もせずに帰った。
いつかまた、機会があって、自分でちゃんとできると思えば、舞台もまたやってみたいなと今は思う。
帰りに、食堂でカツカレーを食べた。昔はカレーが嫌いだった。なんで皆そんなにカレーが好きなのか、意味が分からなかった。今も、カレーがことさら好かれる理由はよく分からないけれど、でも、料理の一種としては、別に嫌いではなくなった。たまには、あ、カレー食べたいな、とも思う。本格的なやつは辛くて無理だけれど。
食堂なんて使うのは卒業して以来だ。学部生のころはたまに利用していた。近頃は学校のなかにあるコンビニでカップラーメンとか買って、パソコン触りながらで済ませてしまう。
食堂のある校舎は、わたしたちが入学する直前に建て替えられたものだった。だから、入学したときはぴかぴかだったけれど、今見るとなんだか薄汚れてくすんで見える。少しさみしい。でもそうやって暮らしてゆくんだもんね。しかたないよね。
研究室に帰る途中、道端にごはんが落ちていた。なんだこれ、と思って通り過ぎたけれど、やっぱり気になって戻ってみた。よく見ると、お茶碗もご飯粒だった。なんだこれ。
実り豊か、と思った。豊作!