夢の中の元カノ
彼氏の元カノの夢を見た。
わたしは彼氏よりも彼氏の元カノとのほうが先に面識があり、かわいい子だな、でもちょっと苦手なタイプだな、と思っていた。
あざとい子だなあと思っていたので、私服を初めて見たときにはその意外なシンプルさに驚いた。あ、案外あか抜けてない、素だこれ、と思った。そこまで計算だったらもう敵わないのだけれども。ダサさというか抜け感が絶妙だった。
彼女はボブの長さの髪にパーマをあててふわふわにしていた。高い声、すこし舌ったらずのしゃべりかた、難しい話は決してしない。たしかに彼女はかわいかった。
わたしは彼女のようにフワフワホワホワした女の子の考えていることや感じていることが気になって、仲良くなりたくて、でもわたしがこれじゃあ絶対に仲良くなれないなとも思っていた。
ギャップがあってもおもしろいし、そのまんま能天気ちゃんでもカワイイなと思った。
彼女のことが知りたくて、でも知りたいなんて思った時点で負けだった。彼女のことなんかなにも知りたくなかった。
彼女は出会って3か月ほどで、学校もバイトもほっぽり出して突然実家に帰ってしまった。あとは、ほとんどまっ白で、二度だけ投稿されたLINEのタイムラインと、ほとんどまっ白で、犬の写真だけが投稿されたFacebookだけが彼女の動向を知る手がかりだった。さっき見たら、LINEのタイムラインもFacebookのアカウントも消えていた。今となっては知る余地もない。
夢のなかで、わたしはすなおに彼女と仲良くなりたくてしかたがなかった。彼女の元カレと付き合っていることがばれたら彼女はわたしを避けるだろうと思って、必死に隠していた。夢のなかの彼女はずいぶんさっぱりとした性格をしていて、ああ、こんな子だったのか、わたしこの子と仲良くなれる、と思った。うれしかった。体育館をレンタルして、日を浴びてぽかぽかする体育館のなか、一日中一緒に眠った。目が覚めたら、もう会えないんだなと分かって悲しかった。
わたしが彼氏と出会ったのは彼女が実家に帰ってから半年以上経ってからで、そのころには彼氏と彼女はもうすっかり別れてしまっていた。わたしが彼氏に初めて会ったころ、彼氏は彼女に対する恨み節を自虐ネタのように繰り返していた。その姿を見て、カワイイな、と思った。
そのころわたしは彼女と同じようにボブくらいの長さの髪を明るく染めてパーマをあてていて、こいつ髪型で選んでんのか? と勘ぐりもした。
あなたが男を好きなのは、女の子が男を好きなものだからだよ、と友人に言われたことがある。たしかにそうかもしれないと思った。
この構造はわたしのヴィヴィアン好きにも当てはまる。わたしはヴィヴィアンウエストウッドが好きだけれど、ヴィヴィアンの歴史や思想にはほとんど興味がない。ヴィヴィアン好きがアレルギーのように毛嫌いするファッションヴィヴィアン。ただヴィヴィアンを身に着けている女の子が好き。ヴィヴィアンを身に着けている女の子への共感と敬意の表明としてヴィヴィアンのアイテムを身に着けている。
本屋に行ったら、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』が目に入った。以前ネカフェかどこかで読んだのだけど、ふと見ると志乃ちゃんが彼氏の元カノに似ている気がしてなぜだか買ってしまった。読んで泣いた。